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高橋ユミ *箱の詩学と美術綺譚*

「雪中の狩人」と月暦画連作 ピーテル・ブリューゲル

凍てつくような寒々しい日々。度を越した寒がりと言われる私は、今頃が1年のうち最も苦手な季節です。
さて、そんな季節に思い浮かぶ絵画作品といえば、ピーテル・ブリューゲル「雪中の狩人」。

bryu「雪中の狩人」1565年/美術史美術館(ウィーン)

ピーテル・ブリューゲル(1525〜1530-1569)はフランドル(現在のベルギー西部・フランス北部・オランダ南部にかけての地域)の画家。北方ルネッサンスを代表する巨匠です。
ブリューゲルに関する資料は少なく、生年ははっきりとわかっていませんが、イタリアに旅をしたのち風景版画・宗教版画の下絵素描家となり、やがて油彩画を描くようになってネーデルランドの風習や聖書の主題を独特の表現で描きました。2人の息子ピーテル(父と同名)とヤンも同じく画家になっています。

「雪中の狩人」は、季節ごとの農民の2ヶ月毎の生活を描いた連作月暦画の12月・1月にあたります。
ネーデルランド(現在のベルギー、オランダ、ルクセンブルクの3ヶ国にあたる低地地域)の伝統的な月暦農事の図像を周到してはいるものの、左側に猟犬を引き連れて歩く狩人を配置し、中央にスケート遊びの村人、右側に遠景の山を配置して、遠近法を用いており、季節感に満ちた農民の生活の情景は、この連作シリーズ合計6点(現存5点)の中でも特に秀逸で、ブリューゲルの作品の中でも、「バベルの塔」「イカロスの墜落のある風景」に並ぶ、誰もが一度は目にしたことのある最高傑作といえるでしょう。

この連作はアントウェルペンの裕福な金融商人で、ブリューゲルの友人でもあったニクラース・ヨンゲリンクからの依頼により、邸宅の装飾画として1565年に1年をかけて制作されたといわれています。
他の季節はそれぞれ「暗い日」2・3月、「干し草の収穫」6・7月、「穀物の収穫」8・9月、「牛群の帰り」10・11月。※4・5月は消失

brueghel_gloomy00「暗い日」1565年/ウィーン美術史美術館

brueghel_hay00「干し草の収穫」1565年/プラハ国立美術館

brueghel_harvest00「穀物の収穫」1565年/メトロポリタン美術館

brueghel_herd00「牛群の帰り」1565年/ウィーン美術史美術館

農民の生活を題材にした作品を多く残すブリューゲル。その精密な描写により当時の風俗を窺い知ることができるため、歴史資料の観点からも貴重とされています。自らも農民であったとされた時期もありましたが、知識階級に属していたことがわかっています。俯瞰された雄大なパノラマ風景と中世以来の伝統の月暦画をマッチングさせて、素晴らしい風景画の世界を生み出しています。4・5月は消失がなんとも悔やまれる連作です。

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参考文献:『ブリューゲルとネーデルラント絵画の変革者たち』(東京美術)

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